当社が開発した防災マット「MATOMAT(マトマット)」が、全国の首長のための情報交換誌「首長マガジン」2025年6月号(vol.8)で紹介されました。

避難所運営に不可欠な住民自治の一助に

環境、福祉を学ぶ子どもたちのSDGs教材でも活用

防災マット「MATOMAT」
太平洋工業株式会社 × 岐阜県大野町

岐阜県大野町は、普段使いもできる防災マット「MATOMAT」を町内の小中学校に配布し、防災、SDGs教育に活用しています。自身の災害ボランティア経験や避難所の現場視察から、災害時の住民自治の仕組みづくりに力を入れる宇佐美晃三町長に、導入の狙いを伺いました。

能登半島地震で見た格差 町長の即断即決で導入 収納スペースは確保不要

―大野町がMATOMATを導入したきっかけを教えてください。

宇佐美晃三町長(以下「宇佐美」) 「防災」は私の町政運営の大きなテーマです。契機となったのは阪神・淡路大震災でした。当時、私は建築設計事務所の代表を務めており、応急危険度判定のボランティアとして活動しました。2010年の町長就任後も、東日本大震災や熊本地震など大規模災害時は必ず現地に入りました。

 昨年4月、能登半島地震の応援職員激励で被災地の避難所を訪れた際、住民による避難所運営の重要性を改めて実感したのです。住民主導で運営されている避難所は活気があり、逆に行政に頼りすぎているところは閉鎖的だと感じました。複雑な要因があるのは承知の上ですが、避難所設備の充実度も大きく関係していると考えました。
 いつ発生するかわからない災害に備え、可能な限り準備をする必要があると思案していたところ、MATOMATを知り、即断即決。9月補正予算で導入しました。

普段は椅子のクッション
災害時には防災マットとして活用

―町長のトップダウンで迅速に対応されたのですね。

宇佐美 そうですね。次年度の当初予算まで待つつもりはありませんでした。
 町内の小学校6校に1,120枚、中学校2校に602枚を配布しました。各小中学校には防災備蓄倉庫がありますが、すでに満杯です。MATOMATは防災用品でありながら、普段は児童生徒が教室の椅子のクッションとして使うので収納スペースの確保は必要ありません。保管場所を気にすることなく、スムーズに導入できました。
 財源は県の補助金を2分の1活用しています。職員が防災やSDGsなど幅広く補助金を探してくれまして、SDGs関係の補助金を充てられたのもよかった点です。

「毎日使う」マットが教材 子どもの防災意識を向上 日常の延長に災害を想定

―大野町ではSDGs教育の教材としても活用されています。

宇佐美 SDGsと一言で言っても、子どもが考え方を理解するのは少し難しいと思います。その点、MATOMATは製造の課程から活用方法まで、相互に関連するSDGsの目標を学ぶ教材としてもぴったりでした。
 クッションに利用しているウレタンは自動車部品の廃材を利用、組み立ては福祉事業所が担っており、防災だけでなく、環境や福祉の観点からもSDGsを学ぶことができます。太平洋工業の社員による出前講座では、児童が実際のマットに触れ、組み立てる体験もしますので、楽しく防災意識を高めることができるのだと思います。
 「毎日使っている」ことが、教育的には一番の効果です。防災やSDGsの意識が頭に残っているはずですから、有事の際は、児童生徒が率先してMATOMATの使い方を周りに教える場面もあるかもしれません。

MATOMATは自動車部品の廃材をリサイクルして作られている
出前講座でMATOMATの組み立てを体験する児童

―児童や教員からの反応はいかがでしたか。

宇佐美 児童からは「マット一つでたくさんの目標につながっていることがわかった」、「ごみになる廃材を使っていることが印象的だった」など新たな発見に対する感想が多く上げられました。教員からは「日常と災害時をつなげて備えるという新しい考え方を児童に学ばせることができた」という声もありました。
 活用方法も多様で、教室での使用の他、集会の際に一人ひとりが体育館に持参して、クッションとして使っている例もあると聞いています。

新たな避難所届け出制度で自治会の自主防災力強化
補助金で備蓄品の整備を

―大野町は4月から「届出避難所制度」を始めました。狙いを教えてください。

宇佐美 体育館など町の指定避難所の他に、一定の条件をクリアした自治会集会所を避難所として指定する仕組みです。特に高齢者にとって、自分の生活圏に避難所があるのは大きいメリットです。行くのも簡単で周りは顔見知りばかり。届け出のあった避難所には補助金を交付し、防災用品の備蓄品整備に充ててもらいます。MATOMATを導入する自治会も出てくるかもしれません。
 これは能登の経験を活かした制度です。避難所運営は住民が主体的に担ってもらい、行政はライフラインや住まい、生活の復旧復興に力を入れる。有事の際は職員も被災者ですから、避難所を一からお世話する余裕は正直ありません。地域が主体となって避難所を運営し、行政と協力しながら物資や食料が必要な場所に届く体制ができればベストだと思っています。

―防災やSDGsの観点から今後の町のビジョンを教えてください。

宇佐美 大野町は災害リスクが比較的少ない地域です。しかし明治24年の濃尾地震のような直下型地震が起きれば被害は免れません。南海トラフ地震が発生すれば町内だけでなく周辺自治体へのバックアップの役割が必要であると考え、県内で唯一防災道の駅に選定された道の駅「パレットピアおおの」を整備しました。そうしたなか、住民の防災意識向上は必須で、子どもたちにはMATOMATをきっかけに防災意識を高めてほしいです。
 今年度から新たにスタートする総合計画では、「子育て・教育」「健康・福祉」「観光」「企業誘致」「環境」の頭文字にちなみ「5K」を重点テーマに位置付けました。「誰一人取り残さない」というSDGsの理念を基に、地球環境の負荷軽減や多様化するライフスタイルに寄り添った支援など、すべての世代が住みやすい社会の実現に向けて、持続可能に成長・発展するまちづくりを進めていきます。

首長マガジン「2025年6月号」