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バルブ製品

次世代電気自動車に向けたヒートポンプ・システム用制御バルブ

バルブ技術部
M.T

創業製品「タイヤバルブ」からの発展と進化

当社の歴史は自動車用バルブコアの製造からスタートしました。創業製品であるバルブコア・タイヤバルブ製品は、今では国内100%、世界50%のシェアを誇ります。そこから派生して現在はカーエアコン用のバルブなど、さまざまな種類のバルブの量産をしています。エアコンの回路は特殊な冷媒環境のため、そこで使われるバルブも同じく特殊な仕様が必要ですが、当社はこれまでにその量産実績がありました。さらに、かつて家庭用エアコンの膨張弁も手掛けていたという経験もあります。そこで近年、電気自動車が普及し始めたため、カーエアコン用のバルブと、家庭用エアコンの膨張弁の製造技術を活かし、この先を見据えた新しいバルブが作れないかと、電気自動車向けヒートポンプ・システム用制御バルブの開発に着手しました。

電動化に伴う、ヒートポンプ・システムへの移行

ヒートポンプ・システムは、主にBEVと呼ばれる純電気自動車や、PHEVと呼ばれるハイブリッドカーに搭載されるエアコンのシステムです。従来のガソリン車の場合、エンジンを動かして温まってくると、その熱を使って暖房運転を始めます。しかし、電気自動車はエンジンではなくモーターで走行するため、熱源がありません。家庭用のこたつやヒーターのような原理で温めようとすると、車載バッテリーの容量ではすぐに電池切れになってしまいます。「長時間走行ができるよう、省エネで暖房運転をする」。これが、ヒートポンプ・システムの役割です。
エアコン回路はコンプレッサと熱交換器が基本構成となり、そこで冷媒ガスと外気が「圧縮・凝縮・膨張・蒸発」のサイクルを繰り返すことで、省エネで室内を温めたり冷やしたりすることが可能となります。この原理に必要となってくるのが、ヒートポンプ・システム用制御バルブです。一般的に量産される冷媒用バルブに使われる部品が10点以内ほどなのに対し、このバルブには約30点もの部品が詰まっています。緻密な構造ため製造の難易度は格段に高まりますが、小さな部品作りに関しては長年培ってきた技術とノウハウがあり、当社が得意としている分野です。また、家電用膨張弁の構造の一部を転用することで開発リードタイムの短縮につながり、今回のヒートポンプシステム用制御バルブ開発が実現しました。

3拠点体制による開発速度の加速

バルブ事業に関しては、日本・米国・フランスの拠点間連携の強化も大きな強みとなっています。米国とフランスで自動車・産業用機械等のバルブを製造・販売しているSchraderバルブ事業を2018年に取得し、グローバルに技術交流を図っています。お客様の要望や仕様は各拠点によって異なるため、新技術の開発はそれぞれが独自にアプローチし、製品精度を保つためにも技術的な内容の交流は定期的に行うという連携の仕方をしています。やはり海外のほうが電気自動車については先進国であり、そこから最先端の情報が得られるため、世界的なニーズを俯瞰して把握できる点は開発にとても役立ちます。今後も拠点間連携体制「SCHRADER PACIFIC」による開発スピードのアップと効率化を図り、世界No.1のバルブメーカーをめざしていきます。

技術者としてのこだわり、思い

今、自動車に限らず電気製品が普及する中で、このような熱マネジメントへの需要は確実に高まっています。バッテリーが最高のパフォーマンスをするための温度コントロールに、当社のバルブが広く使われるようになることを期待しています。
これまでバルブ製品の開発を行う中で、情報を知ることの大事さを痛感しました。世の中の動向や、他社製品の構造、お客様のニーズ。取り入れるべき情報量は膨大で、知らないと何も作ることができません。常にアンテナを張ることはもちろん、自ら情報を収集しにいくことで、世の中のニーズが見えてくるため、その姿勢で今後も新技術の開発に取り組みたいです。
電気自動車の市場は、この先どんどん伸びていくと思われます。太平洋工業としても事業の柱として注力し、「膨張弁といえば太平洋工業」と言っていただけるようにしたいです。