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トップ対談 世界に向けたものづくり人づくりを通じてグローカル企業へのシンカを極める。 太平洋工業株式会社 代表取締役社長 小川 信也×国際レーシング・ドライバー 井原 慶子氏井原慶子氏プロフィール 国際レーシング・ドライバー

夢を追い続ける大切さ

小川:今回なぜ井原さんと対談させていただくことになったのか?実はそのきっかけとなる偶然の出来事があったのです。現在ITER機構長であられる本島修先生が、土岐市にある「核融合科学研究所」の所長をお務めになっておられた際、お目にかかって親しくご指導をいただく機会がありました。その時に、「息子の嫁はレーシング・ドライバーです」というお話があり、ちょうどその日の新聞に井原さんが出ておられたのです。そうしたことから、ぜひ一度お話を伺いたいと、「ル・マン24時間耐久レース」でお忙しい間に連絡し、対談をお願いいたしました。(ITER:フランスにある国際熱核融合実験炉)

井原:ありがとうございます。このお話をいただき、太平洋工業がクルマを支えるコア部品「バルブコア」の国産化に成功された企業と知りました。どんなに部品を改良しても、タイヤの空気圧が整っていなかったら、全て無駄になってしまいます。タイヤは自動車が誕生してからほとんど変わっていない根幹の部品ですが、それを支えているのが「バルブコア」だと思います。国内シェア100%の会社ということで、私も今日お会いできるのを楽しみにしておりました。

小川:まずは、井原さんの著書のタイトルは「崖っぷちの覚悟」ですが、なぜ「崖っぷち」なのか、お聞かせいただけますか?

井原:お恥ずかしい話ですが、私は大学生まで非常にいい加減に生きていたと思います。目標も夢もなく不満だけがあって、「社会人になったら、あくせくと生きていくんだろうな」と考えていた時に、アルバイトでレースクイーンとしてサーキットに行く機会をいただきました。その時に、「人間の本気」を出し切っているレースの現場を体感しました。レーサーやメカニック、エンジニアなどのチーム全員の集中力、緊迫した雰囲気に圧倒されました。同時に、私もせっかく生まれてきたのだから、自分の能力を全て使いきるようなことに挑戦してみたいと思ったのです。

小川:レースクイーンは何百人もいると思いますが、その中で、そのように思う方はほとんどいないでしょう。最初から自信はお持ちだったのですか?

井原:自信はなかったです。私がレースに出たいと言ったら、ほとんどの人が反対しましたし、当時は運転免許も持っていませんでしたので、絶対無理と言われました。全てゼロからのスタートで、レーサーとしては遅咲きの25歳でレースデビューを果たしました。何もかも人より遅れてのスタートでしたが、私は、自分が「こうなりたい!」と頭に思いつく夢は必ず果たせる、どんな壁も乗り越えていけると思っています。

小川:周囲の反対や嘲笑をバネにして、やりたいと思われた夢に集中されたわけですね。当社の創業者である祖父の小川宗一も、「バルブコア」の事業化というワンチャンスに集中して「夢」を追い続けました。関係者に助けられ「尺取虫精神」で挑み続けた結果、精密時計を造るよりも難しいと言われた「バルブコア」の国産化に成功したのです。夢を追い続けたからこそ、レーシング・ドライバー、井原慶子さんがおられるわけですね。

一流とは、五感をフル活用できる人

井原:レースで最終的に勝つためには、クルマが安全に、しかも早くゴールしなければなりません。そのためには、安全なクルマの開発が大切です。レースでは、全てのコーナーで毎回データを取りながら、クルマのセッティングを変えています。ですから1周1周、1コーナー1コーナーが、安全なクルマの開発そのものなのです。

小川:開発・生産技術部門では、様々なシミュレーションをしてデータを蓄積し、設計段階から量産化を想定した開発を行います。安全は、企業活動でも非常に大事です。お客様第一は当然ですが、「安全は作業の入り口、品質は作業の出口」と、安全作業なくして「ものづくり」は続けることはできません。現場での勘・コツと、シミュレーションを確認して評価できる人は、アナログで出来る人、職人芸ともいえる技術者としての深い知識、経験をお持ちの方です。

当社のものづくり現場を見学いただきました。
当社のものづくり現場を見学いただきました。

井原:そうですね。どれだけ発達したシステムであっても、最終的には人間です。実は人間の感覚こそが、事故を未然に防ぐ重要な位置を占めています。データには出ていなくても、焦げ臭いにおいや振動が大きいといった微妙な違いを把握する感覚は、不良を事前に察知できますからね。

小川:工場の設備でも同じ様に、「今日は何か変な音がする」、「変な振動がする」といった、いつもとは違うという事に気付くことが大切です。それをわかる人とわからない人、熟練工と一般の作業員の差は大きいです。

井原:スポーツ科学では、一流と一般の違いを明確にしています。一般の人は、90%以上の情報を視覚で察知していますが、一流の作業員やアスリート、ドライバーは、視覚以外の触覚や嗅覚、聴覚等から、様々な情報を取り入れて判断しています。そのように気付くようになってくると、周囲に対して余裕が生まれます。そのことが大切なのですね。

小川:当社でも「教育道場」で新入社員に対して作業手順とメカニズムを徹底して教えています。また、多能工育成・TPM活動で設備の構造などを学び、熟練工育成の為の教育をしています。経験を積み重ねていくことで、ビビリ音やちょっとした不具合があった時に、ラインを止める、止めないという判断が自分自身でできるようになっていく。ラインを止めるというのは、すごく勇気がいることなのですが、それが判断できるということは、自分の判断に確信と余裕ができるということなのです。

 
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