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トップ対談 ものづくりは、人づくり 人づくりは、こころづくり 太平洋工業株式会社 代表取締役社長 小川 信也×法相宗大本山薬師寺 管主 村上 太胤師村上 太胤師プロフィール

日本人の「和のこころ」を再認識する大切さ

小川:村上管主と出会ったのは、もう30年以上前になりますね。

村上:私は岐阜県各務原市にある薬師寺の岐阜別院で生まれました。そして9歳から小僧として薬師寺に修行に行きましたが、父があまり丈夫ではなかったものですから、30代の頃に各務原に戻って奈良本山と別院を掛け持ちしながら過ごしました。その時に、各務原のある方から青年会議所に入会するよう誘われたのです。そして、大垣の青年会議所のメンバーだった小川さんにお会いしました。様々な活動をご一緒させていただきました。

小川:管主は、青年会議所の活動で、岐阜県下のみならず多くの所を回られましたね。

村上:そうです。それまではお寺の生活しか知らなかったですからね。様々な経営人、若い人と触れ合う機会がなかったので、いろいろと勉強になりました。

小川:1986年、当社の品質管理全社大会で「人づくりは心づくり」と言うお話をいただきました。そこでも「まほろば」の心を説かれていましたが、管主がお取り組みになられている「こころのまほろば運動」は素晴らしいですね。

村上:「まほろば」とは、優れた「美しいところ」という意味です。日本人の「美しいこころ」と「豊かな文化」を広く伝えるため、全国各地で「まほろば塾」を開催し、宗教やジャンルを超えた各界講師による「こころのまほろば運動」を進めています。 現代では、三世代一緒に暮らしている家庭が少なくなり、家族の絆が弱くなってきています。豊かさや便利さの追求も大事ですが、一方で家族と一緒に過ごす時間を積み重ねていくこと、常に「こころ」が通じていると実感できることが、日本人の「和のこころ」を育ててきたと、各地でご紹介しています。敬い慈しみ思いやる「美しいこころ」、いにしえより日本人が大切にしてきた和の精神が「まほろばのこころ」です。

小川:当社では、本社拠点のある大垣をはじめ、近隣地域に居住し、同じような社会で暮らしてきた従業員が大半ですので、今までは自然と「和のこころ」の中で仕事が出来ていたのかもしれません。でも多拠点化を進めグローバル化が進む今、従業員の育成ばかりではなく、家族と過ごす時間を考えるなど、日本人らしい「和のこころ」を大切にする経営が必要とされているように思います。

村上:「和のこころ」が、人と人の融合、価値観と価値観の融合など、様々なものの融合を生み出します。先ほど見せていただいたエンジンカバーなどは、まさにその結晶ではないでしょうか。 軽くて柔らかく、機能も充実している。実際に触れてみて本当にハイレベルな製品であると実感しました。そういう技術、日本のものづくりの凄さや日々の努力が滲み出ていたように思います。

小川:いいクルマを造るためには、同業他社とも切磋琢磨することが必要です。一方、品質・コスト、そしてお客様にとって使いやすいものへと昇華していく、すり合わせ技術という日本独特のものづくりが大事です。価値観の融合というと、奈良には「神仏習合」と呼ばれる独特の考え方がありますね。この間も管主に就任された晋山式では、春日大社の宮司さんが祝辞を述べられていましたね。

村上:薬師寺では、春日大社の宮司さんが最初に挨拶する習慣になっています。神様に仕えておられる神官の方々は、本当に精進潔斎して日々お勤めをしておられます。奈良では神仏関係なくお互いに「こころ」の中で敬愛し、尊敬する気持ちを持っています。このような敬愛や尊敬も、日本人の「和のこころ」として大切なことだと思います。

経営者に大切なのは、見えないものを感じる能力

小川 信也

小川:2015年の創業85周年を機に、従業員が共有していく普遍的な価値観として「PACIFIC VALUES」をまとめ、「夢と挑戦」「信頼と感謝」をグローバルに共有する心構えとしました。100周年を目指すに当たって、改めて太平洋工業らしさを従業員に伝える取り組みです。

村上:100年続く企業の経営者は、人を大切にするという「こころ」をもっていなければ、存続できなかったことと思います。先ほど工場をご案内いただきましたが、尊敬に値する現場でした。毎日繰り返し一生懸命に修練、研鑽を積み、密度が濃くなって技術が上がる。そして感性が高まり、ものに対して愛着も生まれる。そういった「生きているものづくり」を実感しました。

小川:工場の各工程で行われるバトンタッチは、「つくり」に対しての感謝であり、ものに対する愛着です。ロボットが増えてそうしたものづくりへの感性が弱まらないようにしなくてはいけません。また、非常に高い緊張の中で仕事をしなくてはならない場合もありますが、そのような時には、私たちマネジメント側で「こころ」のゆとりを感じて気持ちのこもった仕事ができる工夫をしなくてはならないと思います。これは永遠の課題です。

村上:「経営」という言葉は本来宗教用語です。「経」という字は織物の中にある隠れた縦糸を指します。経営者は、このような見えないものを感じる能力が必要です。親を敬う、先輩を敬う、そういう縦の見えないものを大切にする「こころ」が大事だと思います。これは日々の繰り返しの中で、自然に身についていくものです。

小川:縦糸が目に見えない「こころ」のつながりだとすれば、横糸は、環境変化やお客様のニーズに合わせて絵柄を変えていくためのものですね。その絵柄を描けるかどうかも経営者の能力です。これが時代を超えた経営をやっていくことですね。

村上:太平洋工業の「業」は、仏教で使われる「ゴウ」、身体と口と心で行う行為を指します。経営者は24時間、会社の営みを身体と口と心で常に考え行動するものです。一方で従業員の方は、自分のつくる部品がクルマのどこに使われているか、全体を把握しながらも、技術や知識だけではなくて、智慧が必要になってくると思います。先ほど、ものと人が一体となっているのを目の当たりにし、技術だけではなく、「こころ」が発揮されているんだなと感心しました。

 
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